自動車業界といえば不況で暗いニュースばかりが流れる中、イタリアの
フェラーリ社が08年実績とはいえ過去最高の販売台数を記録、経常利益も最高記録を更新したというニュースが流れた。
昔々「サーキットの狼」というマンガが大流行して、スーパーカーブームが起こった。1975年頃からのこと。山陽新幹線が博多まで開通し、沖縄で海洋博が開かれた。第1回サミットが開かれた年でもあった。ふり返るとまだまだ夢が溢れていた時代。子どもたちはマンガに登場する世界中のスーパーカーに憧れていた。乗り回すなんてもちろん夢のような値段だったが、それでも車に対して憧れを持つことの出来た、幸せな時代だったと思う。
そして嬉しいことに、フェラーリはあの時もそれ以後も、憧れを憧れのままにしてきた会社だったのかも知れない。過去最高の販売台数といっても、その数は6587台。これが世界中で売れた台数なのだ。日本のT社の足下にも及ばない極々少数。だけど、T社の車が「憧れ」を与えてくれるかといえば、残念ながらそうではない。そこがフェラーリとの違いなのだろう。
もちろん会社の実績や経営の実態などわたしにはわからない。CEOは記者会見で「2009年は世界経済動向を注視しながらも、我々は積極的な研究開発への投資を続けていく」と語ったという。事態にうろたえて従業員の首を切り、下請け企業を困窮させ、会社の体面を保つことにまず汲々とするT社をはじめとする現在の社会の情勢にあって、このフェラーリの攻めのスタイルは、さすがに憧れを形にする会社だと思った。もちろん、スーパーカーを購入出来る層は限られているし、彼らに不況は影響ないのかも知れない。でも、夢を見ることをさせない、あるいは許さない社会もどうかと思う。
例えそれがどれほど些細であっても、いつでも夢を見る、夢を持つことができる幸せさえもが、今となっては渇望させるのだ。