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No.527 故郷/田舎って

エッセイ「多摩川べりから」
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 関東に来てから「故郷がないので…」という挨拶言葉をよく耳にするようになった。ゴールデンウィークだとか夏休みだとかになると「田舎があってうらやましい」とも。
 我が家の子どもたちは、その「田舎」について自己紹介で苦労するそうだ。「ご出身は?」と尋ねられて、「それは生まれた場所という意味ですか?」と聞き返し、不思議がられるらしい。上の二人の娘の出身地は岩手県・遠野市。だが、彼女たちのアイデンティティーでいう故郷はどうやら山口県・防府市らしい。長男は出身地が山口県・防府市だが、小学校1年生から川崎市民なので、ひょっとしたら故郷は川崎市と答えるかも知れない。そしてややこしいことに3人とも出身高校は新潟県だ。次女はそういうことを説明するのがとてもとても面倒くさいらしい。一通り説明を聞いた友人は「複雑な家庭なのね」という表情になる、と。
 こうやって考えると、川崎市に住んでいることは少なくとも長男のアイデンティティー形成に大きく影響を与えているし、間違いなく故郷だろう。東京出身者も神奈川出身者も「故郷がない」「田舎がない」などと恐縮せずに、堂々と自分の町を「田舎だ」と表現したらいいのに。
 でも、周囲にいるたぶん皆「田舎だ」とは絶対言わないだろうなぁ。「田舎」という言葉の持つ響きに川崎や東京は馴染まないのだろう。故郷に違いないのに田舎と言えないのは──東北出身で地方暮らしの長いわたしにはちょっと劣等感を抱かせる事柄であったが──少し可哀想にも思える。
 「東北でよかった」と言ってしまって大失敗したも、出身は九州なんだね。田舎者でいれば良かったのに、染まろうと必死だったのかなぁ。全然スマートじゃなくて痛かったけどね。わたしは東北でよかったよ。地方でよかったよ。心からそう思う。
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