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No.173 臨機応変

エッセイ「多摩川べりから」
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 霧の中をくぐり抜けると、バスの正面には遙かに入道雲が見える。涼しく過ごしやすい箱根を後にして、厚木の市街地に達する頃には、観光バスの偏光ガラスを通しても真夏の暑さが伝わってきた。  今年も年長組を連れて箱根で林間保育を行った。園長であるわたしにとって今年の特徴はなんといっても、プログラムの決断がなかなか出来ないことにあった。  幼児が親元を離れて箱根で一泊するのだから、教師たちはいろいろと細やかな準備をする。進行表も晴天用と雨天用とが組まれている。たとえば初日、晴天なら野鳥の森で遊ぶが、雨天なら箱根園の水族館に見学に行く。この決断を通常は高速道路のサービスエリアでの休憩中に現地に電話を入れて決めるのだが、今回そこでは判断が付けられなかった。結局現地まで出向いて、地面や天気の状況を自分の目で確認して、箱根園に向かった。夜のお楽しみ、キャンプファイヤーもすべて準備を整えて空を仰ぐ。夕食前に、そして夕食後に何度もファイヤー場に出向いた。結局気温も天気も問題ないが、強く巻く風がおさまらず、急遽室内でのキャンドルファイヤーに切り替えた。  急な予定の変更に、子どもたちもよく付いてくるが、引率する教師たち、そしてそれ以上に荷物担当の教師が臨機応変に頭を切り換えて準備に当たってくれる。子どものために振り回されるのはむしろ喜びであるかのように。  子どもたちが寝静まって始まった教師たちのミーティングで、新人教師がいみじくも語った。「とにかく状況を前にして「臨機応変」と言われるが、何が臨機応変なのかさえわからなかった」と。「臨機応変のマニュアルが必要かもね」とみんなで笑いあったが、現場とは本当にそういうものだと思った。  臨機応変を支えるのはもちろん経験によるところも多いが、ほとんどは「勘」、そして「撤退する勇気」なのかもしれない。
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