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No.226 史跡と共に召された友を悼む

 22日(金)、古い友人の訃報が届いた。
 前任地山口県防府市で、江戸時代に萩と防府を結ぶ街道だった「萩往還」に面した宮市本陣の当主兄部(こうべ)次郎さんが、風呂の残り火から出火した火事で焼死したという。84歳だった。
 兄部さんは防府教会の会員だった。毎年クリスマス・イブの夜、キャンドル・サービスを終えて教会員がキャロリングに出かけるコースの終盤に兄部家があった。夜中に宮市本陣の兄部さんのお宅にお邪魔すると、恒例のぜんざいをつくってご夫婦で待っていてくださっていた。わたしたちは寒さに疲れた身体を本陣の奥の間で休ませていただいたものだった。
 宮市は防府天満宮の門前町。古い商家が立ち並ぶ。それでも現代の暮らしの必要に迫られて、古い家はどんどん取り壊されていた。そういう中で兄部さんは、国指定史跡とされた家屋敷を全力で守っておられた。何せ何か一つ修理するのも文化庁の許可がいり、そのくせ役所は維持管理に必要な経費などびた一文支払わない。お連れ合いの敏子さんが時々、文化庁とのやりとりを苦にされて愚痴をこぼすのを傍らで静かにほほえみながら、しかし静かに辛抱しておられたのだろう。年老いた夫婦二人暮らしで史跡を守り続けることがどれほど大変なことか、静かな言葉の端々から想像するしかなかったが、端で見ていてもそのご苦労は大変なものだった。それでも室内外の居住まいはいつも丹精されて、まるで専門の学芸員が管理しているかのようだった。
 その兄部さんが、古い屋敷ゆえに早い火の手に逃げ遅れて、屋敷と共に召されていったのだ。なんとも痛ましい事故。史跡と呼ばれた家屋敷も全焼でもはや復元は不可能な状態らしい。幸いに敏子さんは逃げ出すことが出来て軽いやけどで済んだと聞いたが、彼女が心に受けた痛手は計り知れない。主の慰めを心から祈った。