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No.362 言を取り戻せ

エッセイ「多摩川べりから」
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 川崎中学校の職場体験で四人の生徒が二人づつ二日間やって来た。そこに至るまでも様々なことがあったが、とりあえずそれは割愛しておこう。四人はそれぞれ「自己紹介カード」というA4のプリントを持参してきた。名前と好きな教科や趣味、自分の性格、職場に対して聞いてみたいことなどが記されている。これが傑作。「好きな教科=社会とか?」「趣味=ぬりえ」。イヤイヤ、ウケを狙ったわけではない。れっきとした中学二年生女子の文章なのだ。それも苗字一字のみ漢字であとはひらがな主体だもんだから、読みにくいこと読みにくいこと。「職業」の「体験」なのだから、中学生と雖もれっきとした職務上の書類ではないのか。さらに昼食時にわざわざ「質問はないか」と聞いても、ただお互いの顔を見合わせるだけで返事もしない。わが先生たちは生徒に呆れる以上に、こういうカリキュラムを行う学校に呆れ返っていた。
 メールだとかLINEで仲間と交わすそのままを持って来る。だが、そういうこと以外に経験がないのだろう。だからこそ指導とか教育とかができる得がたいチャンスだと思うが、学校の教師が対応しきれていないようだ。これが活きた「体験」になるとは思えない。
 長女の高校卒業式に出席した。高校での学びは「自ら考え、その考えを語り、他者の違いに気づき、それを認めることだった」と卒業生代表はその挨拶の中で述べた。生真面目だった彼女は同級生たちの生活態度に呆れ、「それもありかも」と投げやりになったそうだ。だが、「それもあり」こそ、彼女が直面した自分の価値観の変化だった、と。「それ」を「あり」にできた、他者の違いを受け入れた第一歩だったのだ、と。
 目の前の中学生があと5年でこの境地に至ることは絶望的に思えて仕方ない。彼女たちに言葉を、自分の考えを、取り戻す歩みを丁寧に進めなければ、その人生ば、あまりにも虚しいではないか。
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