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No.372 被害であって風評被害ではない

エッセイ「多摩川べりから」
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 小学館が発行する「美味しんぼ」というマンガがある。グルメブームに一役買った本で、わたしも単行本をかなり持っているし、影響も受けてきた。
 この連載は「ビックコミックスピリッツ」に掲載されているのだが、この4月28日号には主人公の新聞記者たちが東京電力福島第一原子力発電所を取材したあと、鼻血が出たりひどい疲労感に襲われる場面がある。また、前双葉町長が実名で登場し、「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と語っている。これに対して双葉町は「風評被害を生じさせている」として小学館に抗議文を送った。「双葉町には、雑誌が出たあとの先月30日から6日までに、「福島県産の農産物は買えない」とか「福島県には住めない」、「事実と異なるので小学館に抗議すべき」などの意見が、電話やメールで数十件寄せられているということです。」とNHK NEWS WEBが伝えている。
 またも「風評被害」。以前にもこの欄で書いたが風評被害ほど捕らえどころのない事象はない。実際に被害額が見積もれるものではないからいわば「気分」と同義語ではないか。ある事柄に対して「風評被害を増長させる」という言い方は、申し訳ないが「気分が悪い」「胸くそ悪い」という言い方に等しい。
 風評であれ何であれ、原発は事故を起こし、それがまだ収束していないのは事実だ。「福島産の野菜」とか「福島には住めない」とかの意見が寄せられたらしいが、放射線は県境など意識してはくれない。被害と言うならもはや「福島」という枠をはめること自体無意味だ。抗議するとしたら「風評」被害ではなく「被害」に対して、それを「増長させた者」にではなく被害をもたらした者にこそすべきだろう。「復興を進める福島県全体にとって許しがたい風評被害を生じさせているほか、福島県民への差別を助長させることになる」のは原発事故がもたらした結果ではないのか。単にマンガが問題なのか。
 なにがこうもピントのずれたことを増長させるのか、考えざるを得ない。
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