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No.374 運動会で

エッセイ「多摩川べりから」
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 五月の気持ちよい風の吹く中、川崎小学校の運動会が行われた。川崎に来て以来ずっと幼稚園長として参列してきたが、最近はPTAのOBとしても招かれるようになった。
 つい最近まで幼稚園生だった子どもたちが、わずか2ヶ月もしないうちに立派な小学生となって、それでも上級生から手厚く面倒を見られながら走ったり飛んだり楽しそうにダンスをしている。見ているわたしたちの顔が思わずほころぶ。
 いつも親しく声をかけてくれる町内会長のOさん。自分は一度も運動会で日の目を見なかったと懐かしそうに話してくれた。その頃足の遅い生徒は「良い兵隊になれない」と叱咤されたと。学制のスタートと徴兵制のスタートはほぼ時を同じくする。意地悪く見れば学校とは兵隊をつくるシステムであった。運動会はいわば教練の結果を大々的に示す場であったのだろう。その場でいつも肩身が狭かったと話すOさん。同じく運動会でいい目を見たことのないわたし以上に、さぞ厳しかったのだろうと思った。
 Oさんのお父さんは、足に不具合があってうまく走れない子どもを見ながら「あの子は兵隊に行かなくていいんだよな」と呟いたという。人々を圧迫した重苦しい空気。その生々しさを不意に思った。一方で、目の前の子どもたちが、そんな重苦しい雲とは無関係に、運動会そのものに全力で向かっている姿をまぶしく思った。
 「国際情勢という大きな状況と、人を殺す、人が殺されるかもしれないというリアリズムを語るべきです」と、自民党総務会長の野田聖子氏は語った。曇りなく運動会に全力で向かう子どもたちを、人を殺し殺される局面へと誰が喜んで送り出すか。物言えぬ空気をつくり出す魔法でも編み出すつもりか。ならば少なくともわたしはごまかされまい、と子どもたちにそっと誓った。
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