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No.384 「ただ一度」を思う

 「今まで一杯がんばってきたが、何かが足りなかったのだと思う」。
 高校野球石川県大会決勝で、球史に残ると言わしめた9回裏8対0から8対9の逆転で敗れた小松大谷高校の山下投手の敗戦の辞。
 昨土曜日朝のテレビはどの局もこの対戦を取り上げていた。打者13人を送り込んで一挙9点をもぎ取った星陵高校の監督は「まだ実感が湧かない、明日の新聞を見て初めてその気になるのかも」と話していた。「『打者一巡で回すぞ』と声をかけはしたが、監督の方が先に諦めかけていた。でも子どもたちは最後まで諦めなかった」とも。歴史に残る闘いは、勝った側にも負けた側にも、球場に詰めかけたファンも報道陣にも、目の前で一体何が起こったのか冷静に考えられない熱狂の渦だったと思う。土曜日に、結果を知っていながらVTRを観ていても、その渦に巻き込まれた感がある。
 流れる涙を拳で拭いながら山下投手が語ったあの言葉が印象的だ。いやいや、君は十分がんばってきたよ。足りなかった努力なんて一つもないよ。しいて言えば“運”だとか“空気”だとかが足りなかっただけだよ。
 地方大会には3917校が参加したという。小松大谷高校はその他の大勢の学校と同様、この対星陵戦でただ1回だけ負けたのだ。3868の学校が皆等しくこの夏の大会でただ一度だけ負けた。49の代表校はただの一度も負けなかった。どちらにとっても「ただの一度」。
 地方大会なら決勝まで進むのに4〜5回戦程だろうか。期間にしたら2〜3週間か。その中での「ただ一度」。
 人のいのちはそれに比べたら遙かに長いが、それでも等しく「ただ一度」。だからその人が、その人に与えられたいのちを全うするただそれだけのことがどれだけ貴いことか。同じ高校生が、同級生のいのちを奪ってしまった事件を思う。「ただ一度」の重さ尊さを思うのだった。