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No.517 お前の母ちゃん

エッセイ「多摩川べりから」
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 昔々、わたしがまだ子どもの頃、友だちとのケンカで最後に決まり文句のように発せられたのは「お前の母ちゃんデベソ!」だった。今にして思えば「なんだそれ?」な文句。何の根拠も裏付けもなく、加えてさしたるダメージを与えられる言葉でもなさそうなのに、なぜかのこ言葉がはやし立てられていて、言う方は小気味よかったし言われる方は結構ガ〜ンと来たものだった。
 最愛の(というほど自覚していたわけではないのだが)家族が「デベソ」なる侮辱をされたこと(デベソが侮辱なのかどうかも本当のところはわからないのだが…)、しかも全くのデマを言い広められたことが、たぶんガ〜ンと来たことの中味だったように思う。今風に言えば捏造された個人情報の暴露。子どものケンカだからお互いに言い合っているわけで、しかもおんなじ文句が飛び交うのだからお互い様、それほど罪深くもなく意味深くもない(隠語的な意味合いを解説するムキもあるにはあるのだが…)。
 だが、なんだか見渡せば、あちこちにこれとおんなじようなやりとりが、公共の電波を使って喧伝されているではないか。
 ある女優が引退宣言して宗教団体に帰依すると発表されると、たちまち彼女の日常がいかに不品行だったかの証言が「関係者」なる人の発言として飛び出すなんていうのは、事が比較的新しいから例に挙げたが、ワイドショーに取り上げられるスキャンダル報道はほとんどこの例と似たり寄ったりではないだろうか。一般視聴者にとって、言ってみればどうでも良い情報や些細な、あるいは「それが何?」と言いたくなるような些末なことがいちいち大げさに取り上げられる。それ自体もはや娯楽の域を通り越して醜さしか感じられないにもかかわらず、それを批判するだけ見てしまっている自分もなんだか下らなすぎるのだが…。まぁ、もともと高尚なご人格ではないからいいけど。
 今度からは「あぁまた【お前の母ちゃん…】が始まった」と見流そう。
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